になし藩国支援SS・後ほねっこVer。

「なるほど、この手順でホットケーキユニットに交換する…」
「ええ、汚れたら丸洗いできますから、プレートを引っこ抜いて
 水洗いしてください」

モニター画面を見ながら一つ一つ説明してゆく
北国人のクセにあまり美形ではないその男は名を南天と言った。
後ほねっこ男爵領の技族である。

吏族+犬士のアイドレスを脱ぎ、
本職であるパイロット+整備士の恰好だった。
帽子を逆に被るのが彼の癖で、技族の仕事中に前髪が気になるのが
嫌でそうしているうちに……デコが広がったとか色々と噂がある。

彼の説明を聞いているのは愛鳴藩国の九頭竜川。
子供好きで知られるこの人物は、文族としてもその名を知らしめていた。
そして、「おふくろさん」(王犬・母なる犬)を語らせたら
右に出るものはおらず、南天もそれを聞くのも読むのも好きだった。

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根源種族に蹂躙され、炎上したになし藩国。
その住民の多くは、愛鳴・後ほねっこが結成した
『になし藩国戦後復興支援隊』によって立てられた
仮設テントでの暮らしを余儀なくされている。

になし藩国は改易されなかった。
天領の援助を受け、そのままの領土で復興する事となった。
物資も着々と届いている。

だが足らないものがある。
人手だ。

になしの国政に携わる国民、一般住人…
そのほとんどが、家を失い土地を焼かれ、路頭に迷っている。
そこで、今回の復興支援隊の結成だ。

になし藩国民以外の人手を復興の為に役立てようと言う事である。


「天領から食料が届きましたよー」
「荷解き手伝ってくださーい」

愛鳴藩国の技族ミリと、吏族のたまきが遠くから声をかける。
女学生の可愛らしい声に顔がほころぶ…って、何かオヤジになってないか、俺
九頭竜川が手を振って、今行くと合図する。

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「炊き出し班にもウチのを何人か行かせます。弁慶の操作で分からない
 事があったら遠慮なく聞いてください」
「有難う御座います。では…」

有難うはこっちの台詞、なんだよなぁ…
頭を下げて、ミリの方へ駆け寄る九頭竜川を見ながら思う。
彼らが乗ってくれなかったら、きっと支援隊は結成されなかったろうから。
何しろ後ほねっこは人材不足。
藩王を抜かすと6人しかいないという超弱小藩国なのだ。

それに、改易前滋賀にあったほねっこを襲った戦火。
その後の支援に誰より早く手を上げてくれたのは他でもない
愛鳴藩国であった。

「先輩」

背後にかかるこれまた可愛らしくもどこかトゲのある声。
男爵領文族…いや、現在は吏族の深夜であった。

しかめっ面で南天を見上げている。

「おう、悪りぃ…みんなの配置決まったから」
「遅いです、仕事は速く、正確に。」

へいへいと気のない返事を返す南天。
メモを見ながら指示を出す。

「えー、まず…ユーラ、真春は炊き出し班」
「おや、腕の見せ所ですねぇ」
「真春は弁慶の操作指示を頼む」
「…私だって料理くらいできるよ」
「他意はないって」

ユーラは料理が得意。
ほねっこ学園のバトルメード養成科では摂政であるにも関わらず
何故か料理を教えている。

ちなみに、先ほどから出てきている『弁慶』というのは
男爵領で改良されたトモエリバーの愛称である。
通常は『香車リバー』という愛称で呼ばれているが
バックパックを交換した姿を『弁慶リバー』と分けて呼んでいるのである。

「深夜、でみは天領から来た物資のチェック…HXさんは
 被害住民の名簿作成、両方ともになし藩国の若月さん達が既に
 作業を開始しているからその手伝いを」
「了解、書類整理は得意だ」
「任せてください、伊達にほねっこの修羅場はくぐってません」
「自慢、になるのだろうかなぁ」
「XHさん…それは言ってはいけない台詞」

深夜は吏族、でみは法官補佐であり
XH‐834氏はアイドレス界で知らぬものはそういないであろう『遊び人』だ。
男爵領の頭脳とも言うべき3人なら、書類チェックくらいはお手の物である。

「で、何で俺が指示出してるんだろう」
「それは先輩が言いだしっぺだからです」
「そうですよ、最後までキチンと責任を持って下さいね」


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我に返った南天に、深夜のいつもどおりのきつい一言と
温和なオーラを纏っているのに時々厳しいユーラの言葉が
突き刺さる。

「分かったよ、分かってるよもー」

大分で一人寂しく留守番している藩王に
恰好つけて、になし藩国復興支援の承諾を貰ったのは数日前。
しかも南天一人でさっさと決めて、後から男爵領の
皆に無理矢理了解してもらうと言う…悪な手口。

しかし、表面上は怒っているようにしていても
そこはほねっこ一家、動くとなれば一致団結である。
まぁ、一蓮托生ともいうが…。

そうこう言っている間に、皆割り当てられた作業場所に向かう。
南天も自分の仕事をしようと歩き出した。

「やっとお会いできました、南天殿」

ふんわりと優しい声。

赤髪の紳士、愛鳴藩国・藩王くぎゃ~と鳴く犬閣下その人である。
隣には男装の麗人、エル=ロン女史と王犬・母なる犬陛下…。


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「これはっ…」
「ああ、こんな所で…膝などついては汚れますよ」
「南天殿、閣下は面を上げてくださいと仰せです。」

言われて恐る恐る顔を上げる。
その南天にくぎゃ~閣下は近寄り、ツナギについた泥を払った。

「だ、へ、平気です!平気ですから…!」

南天は彼にしては珍しく慌てふためき、後ろに飛び退いた後
しまった、逆に失礼だった。と考え直し数歩近寄った。

そうですか?と優しげに笑む閣下。
隣のエル=ロン女史は苦笑していた。

くぎゃ~閣下は元アイスクリーム売りで、親しみやすい藩王様として
他藩国にも人気が高い。
他の藩王様よりも、我々に位置が近いのだ。

位置の近さならウチの藩王も負けてないんだけどなぁー。
どうしてこう違うのだろうか、人徳とか変態じゃないとかだろうか…
ソッ○スハ○ターだもんなー、ウチの藩王。


その頃遠く男爵領でクシャミした火足藩王が「誰か俺の噂でも…!」と
言って「花粉症ですか?大変ですわね」と美人人妻犬耳書記長にからかわれたりしていた。


「何か足りないものは御座いませんか?になし閣下に言って天領に取り合ってもらいましょう」
「そうですね…しいて言うならば……医者でしょうか」

言ってみて、ちょっと愚痴っぽかったかと思った。
帝國に専門的な医者はいない、怪我は自分達で治療するしかない。
ゆえに高度な治療は受けられないのが帝國の現状であった。

天領からいくら医療品が送られてきても使える者が居ないのだ。

苦い顔をする南天に、顔を見合わせるくぎゃ~閣下とエル=ロン女史。

「分かりませんか?南天殿」
「少しばかり鼻を利かせてみるとお分かりになるでしょう」

怪訝に思いつつも、回りの気配を感じてみる。
……この、いけ好かない匂いは。

陽だまりの、干草の、かつぶしの……


「……っとに、物好きが多いなぁ…お隣は」

南天は帽子のつばを下げると苦笑する。

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「それが彼らの正義なのでしょう、我等の正義が慈と愛にあるように」

彼らは自由と、個を尊ぶ。
そして不思議とそれが和になるのだ。
個の誇りこそ正義、繋いだ和こそ行く道であるのだろう。

「内緒のトコ、俺は正義ってのは信じてません…意地ってんなら信じてますが」

いつのもように、へらっと笑って顔を上げる。
意地と空回りだけで、ここまでやってきたのだ。
それを正義と言うなら言えばいい、自分はただ生きたいだけでやってきたのだ。

ふ、とささやかに笑うエル=ロン女史。

「天領の方々もお入りになっておられますよ…少し自重なさっては如何か?」
「これは、失礼。美人の前だとついつい口が滑ってしまうんですよ」

亜細亜ちゃんの為に練習したにっこり笑顔。
おどけた南天を見て母なる犬陛下が、はふと溜息のような声で鳴いた。

「では、自分も現場へ参りますゆえ、御前失礼を」
「南天殿はどちらへ?」
「瓦礫の撤去作業へ参ります」
「それは…どうぞお気をつけ下さい…」
「なぁに、になし藩国の犬士達は優秀です故。ですが御心配有り難く存じます」

「国許へ帰られたなら、火足閣下によろしくお伝え下さい」
「ええ、よく言っておきます。くぎゃ~閣下の落ち着きを少しは見習うようにってね
 一人が余程堪えたらしくて…最近は雪だるま相手に会話してるそうです」

エル=ロン女史、たまらず噴出す。咳払い。

「御心配なのですよ、皆さんの事が…
 手の届かない危険なところに大事なものがある…それは堪えるでしょう」

言ってゆったりと微笑むくぎゃ~閣下、この人は本当に
他人を『いい人』にする特技があるのだな…

その説明で『雪だるま相手に独り言を言う変人』から
『仲間の身を案じ、一人孤独に耐える藩王』になってしまう…。
いや、その解釈の方がいいのだろうが

あの藩王がそんなタマかね、と薄く笑う南天。
いや、本当は分かっているんだ。
ほねっこ国民と藩王は黄色いメガネとあの女性人型BALLSの関係なのだろうと言う事は…いや、言ってて鳥肌ものだが。
要は認めがたい縁があるという事なのだけれど。


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一通り考えて思考を止めた。
あれだほれ、あれっつーか腐れ縁なんだよ。
腐れてんだよ、うん。
考えてて鳥肌立つの初めてだわー、あー、キモー。

「あー、そうですね。そういう方向で考えます」
「では、私達は炊き出しのお手伝いに回りますので」
「はい、お声お掛け頂き有難う御座いました」

去っていく、くぎゃ~と鳴く犬藩王一行。
南天はその背を見て、視線をテント群に移す。

かつての男爵領の光景とフラッシュバックする…。
ここが北国でなくて良かった…あの時は…

北国の冬、しかも仮設テント暮らし…プレハブが組まれたのは数週間経ってだった…。
その間にも、寒さに凍え怪我で体力を奪われ…そして失われてゆく命があった。

ここが北国でなくて良かった…本当に。

ぎゅうと拳を握る。
になし藩国をを瓦礫の山にしたのはたった一人の敵だったのだと言う。
名は白にして童心のボラー…彼は八神少年を殺害、そして3人のアラダの前から
悠然と姿を消したのだと、そう聞いた…帝國の面目も、戦士の誇りも踏みつけにして。



“こころがくもったときは、ほしをみるのだよ”



誰だかは知らない、誰かがそういっていた。
今、もし誰かの心が曇っているのなら
復興支援という愛と慈の心が星になればいいと思った。

拙い理想であるけれど、ただの綺麗事ではあるけれど
空回りで自己中心的な願いだったが
これが架け橋になる事を心から願った。

(文章・イラスト:南天@後ほねっこ男爵領)

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